作り手の心が見える 地域が誇る手製スープ
- 自然の恵みをいただく
- 更新日:2021.12.28
かけがえなき“8年”が未来を思い描く糧に
伝統工芸「来民(くたみ)うちわ」をはじめ、のどかな田園風景を一望できる「一本松公園」(「石のかざぐるま」も有名)など多種の魅力を備える山鹿市鹿本町。国史跡「鞠智城跡」にも続くのどかな市道沿いに、山部絵理さんが開いたスープ専門店『東風日和』はあります。かつて同じ場所でカフェ(イタリアン)を営んできた山部さんは2020年3月、約8年の営業に別れを告げ、およそ一年の充電期間を経てスープを主とする予約制(※)の店として再出発を遂げました。それまで多くのお客を抱えていた店を一区切りすることには、山部さん自身、万感の思いがあったといいます。「その8年は本当に刺激の連続でした。いつの日からか自分の想像を遥かに超えるお客様が足を運んでくださる店に成長させてもらいました。その活況に対して心から嬉しい反面、当時は育児との両立や混雑による近隣への影響、そしてコロナとの向き合い方を考えざるをえない状況にもありました。そこで、自分や周囲の人のためにも一度、立ち止まる時間をつくろうと思いました」。
※来客状況により予約無しでも来店可
誰もが食べられる料理を心身が整う「スープ」で
閉店後、2児の母親として家族で過ごす時間はもとより、約20年のキャリアをもつデザインの仕事をマイペースに取り組んだという山部さん。その穏やかな日々において少しずつ先のことを思い描くなかで、スープ専門店『東風日和』の構想が生まれました。それは山部さんが長らく抱いてきた「夢」への一歩でもありました。「端的に言えば“森の中のスープ屋”さんです。スープに着目したのは、全世代に向けた食べ物であること、それに、地産野菜を使うことで地域の農家さんとの“つながり”を得られると思ったからです」。
その言葉どおり、普段山部さんが手がけるスープには地元で採れた季節ものの野菜や穀物がふんだんに盛り込まれます。その数、実に13種類(※)。近隣に住む農家のおばあちゃんから“差し入れ”のように受け取る種々の野菜もメニュー構成の一部となることも。一方、山部さんの実家・阿蘇で獲れる野菜も滋味深いスープの味わいに一役買っています。「毎週末、母がいる阿蘇の畑まで仕入れに行きます。無農薬で育つ生き生きとした野菜を手にするたびに、素材そのものの味わいをお客様に届けたいと思いますね」
※仕入れ状況により変わることもあります
豊かな食材とともに地域とのつながりを大切に
それぞれの野菜がもつ豊かな味わい。これは山部さんのスープづくりにおいて、もっとも重要なテーマの一つ。そのため、調理には味付けのための添加物は使いません。「味の調整は基本的に塩のみ。野菜や穀物がもつ旨味の調和を心がけています」。“体と心に寄り添う料理”を掲げ、山鹿や阿蘇、菊地地区の農家から仕入れた野菜でつくる山部さんの特製スープ。人気メニューのひとつとなるランチセットはスープ(選択可)の他に、サラダ、肉などを盛るプレート料理、雑穀米おにぎり。そのどれもがしみじみと味わうことで心身が整うかのようです。「予約制にともない、お客様にはスープもお料理もより時間をかけて味わっていただけるようになったと思います」。
メニューに加えて、来店者が思い思いの時間をゆっくりと過ごせるようになった背景には、余白のあるテーブル配置など、工夫を凝らした空間構成も挙げられます。かつて地域の診療所として機能した趣ある一軒家には新たに植栽も設けられ、山部さんが長い間夢見た“森の中のスープ屋さん”を具現化。「新業態として歩み始めて一年。今まで以上にお客様や地域とのつながりを感じられる場をつくりたいですね。高齢でも元気なかたが多い一方で、そうでない方もいます。年配者との交流も保っていけるように」。山部さんのスープが紡ぐ『東風日和』の物語は間もなく2年目のシーズンに突入します。
shop info
東風日和(こちびより)
熊本県山鹿市鹿本町庄486
0968-46-6133
11:30~17:00
不定休